社内相談窓口の利用が伸びない理由と、社外窓口という選択肢
社内相談窓口の利用が伸びないのは周知不足ではなく、窓口が社内にあること自体が相談の心理的ハードルになっているためです。社外窓口に切り替える際は相談件数を追う前に、人事が受け取る情報とその境界を文書化し、社内アナウンスの具体的な文言に落とし込む必要があります。
利用率が低いのは「周知不足」ではない
原因は周知不足ではない
窓口が社内にあること自体がハードルになっています。告知を増やしても、この構造は変わりません。
恐れているのは不利益
「相談したことが自分に不利益として返ってくるかもしれない」。厚生労働省は、体制の整備と不利益取扱いの禁止を同じ措置の中で求めています。
効くのは線引きの明文化
「安心してご相談ください」ではなく、誰が何を見て、誰が見ないかを文書にすること。
社内の相談窓口を設置したのに相談件数が伸びないなら、原因はポスターや社内報での告知不足ではありません。窓口が社内にあること自体が、相談する側にとってのハードルになっています。告知を増やしても、この構造そのものは変わりません。
相談窓口の運営を人事部や総務部が担っていると、そこに寄せた相談内容が巡り巡って自分の評価や異動の判断に影響するのではないかという懸念を、従業員は拭えません。窓口の対応を丁寧にしても、「誰が扱っているか」という一点が変わらない限り、この不安は解消しにくいものです。
従業員が実際に恐れているのは何か——人事評価・異動・報復への不安
相談を避ける最大の理由は「窓口の存在を知らない」ことではなく、「相談したことが自分に不利益として返ってくるかもしれない」という具体的な不安です。これは主観の問題ではなく、法律がわざわざ禁止事項として明文化しているレベルの、現実に起こりうるリスクとして扱われています。
「【労働施策総合推進法(抄)】(職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)第31条事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用……」
厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策」パンフレット所収/労働施策総合推進法 第31条(令和8年10月1日施行時点の条番号。同日より前は第30条の2)
この条文にもとづき、厚生労働省は事業主が講ずべき措置として、相談体制の整備だけでなく、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止をあわせて求めています。
「事業主が雇用管理上講ずべき措置■事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発■相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備■ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応■併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)」
職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省
「体制の整備」と「不利益取扱いの禁止」が同じ措置の中に並んでいるのは、体制さえ作れば相談されるわけではなく、不利益にならないという確信がなければ相談は起きない、という前提があるからです。窓口が社内にある限り、この確信を制度の説明だけで作るのは簡単ではありません。
社内相談窓口だけでは、相談のハードルは下がらない
厚生労働省は、窓口を作ったあとも継続的な点検を求めています。
「事業主は、日頃から労働者への意識啓発等、ハラスメント対策の周知徹底を図るとともに、相談しやすい相談窓口となっているかを点検する等、職場環境に対するチェックを行い、特に未然の防止対策を十分に講じるようにしましょう。」
職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省
「相談しやすい窓口となっているか」を点検の対象として明示しているということは、設置しただけでは相談しやすい窓口になっているとは限らないと、行政自身が前提にしているということです。周知を重ねるだけでこの点検項目を満たせるなら、わざわざ点検対象として挙げる必要はありません。窓口の所在——社内か社外か——は、この点検で見るべき要素の一つです。
社外相談窓口にした場合、人事が「受け取るもの」と「受け取らないもの」
社外化を検討する担当者が最も知りたいのは、実務としてどこまで人事に情報が来るのか、という線引きです。近い設計思想は、ストレスチェック制度における外部実施者と事業者の関係にすでに存在します。
「労働者の同意が得られていない場合には、規則第52条の11の規定に基づき、事業者は、実施者によるストレスチェック結果の記録の作成及び当該実施者を含む実施事務従事者による当該記録の保存が適切に行われるよう、記録の保存場所の指定、保存期間の設定及びセキュリティの確保等必要な措置を講じなければならない。」
ストレスチェック制度関連資料|厚生労働省
ここでの原則は、個人が特定される内容は本人の同意なしに事業者(会社)に渡らない、という一点です。社外の相談窓口を設計する際も、この線引きを踏襲するのが基本になります。人事が受け取るのは、個人が特定されない範囲の傾向や、緊急性が高く本人の安全に関わる場合、あるいは本人が同意した場合に限られる情報であり、相談者が誰で何を話したかという内容そのものではありません。
| 情報 | 人事へ渡すか | 条件 |
|---|---|---|
| 個人が特定されない範囲の傾向 | 渡す | — |
| 本人が同意した内容 | 渡す | 同意した範囲で |
| 緊急性が高く本人の安全に関わる情報 | 渡す | 必要な範囲で |
| 相談者が誰か | 渡さない | 本人の同意がない限り |
| 何を話したかという内容そのもの | 渡さない | 本人の同意がない限り |
この表は、社外窓口を設計するときに文書として定義しておくべき境界です。定義されていない社外委託は、社内窓口と同じ不信感を招きます。
一方で、外部窓口を社内の体制から完全に切り離してしまうと、対応が必要な場面で連携が取れなくなります。厚生労働省もこの点は明確にしています。
「当該外部機関において労働者からの苦情又は相談に対し適切に対応することができるよう、当該窓口のスタッフが、企業内の産業保健スタッフと連携を図ることができる体制を整備しておくことが望ましい。」
ストレスチェック制度関連資料|厚生労働省
つまり社外化とは、人事から相談内容を完全に見えなくすることではなく、「誰の同意なしに何を人事に渡すか」を事前に文書として定義し、その境界の中で必要なときだけ連携する体制を作ることです。この境界が明文化されていない社外委託は、社内窓口と同じ不信感を招きます。
社内アナウンスの文言:信じてもらうために書くべきこと・書いてはいけないこと
「安心してご相談ください」という抽象的な呼びかけは、何度繰り返しても信頼を作りません。信頼を作るのは、具体的にどこまでが人事に伝わり、どこからが伝わらないかという線引きを、あいまいにせず書くことです。
社内アナウンスに書くこと・書かないこと
- 書くこと:相談内容のうち個人が特定される部分は、本人の同意なしに人事へ共有されないこと。
- 書くこと:緊急性が高い場合や本人の同意がある場合に限り、必要な範囲で連携すること。
- 書くこと:相談したこと自体が評価や異動の判断材料にならないこと。
- 書いてはいけないこと:「絶対に漏れません」といった、運用の裏付けのない断定。
- 書いてはいけないこと:相談窓口の実績や利用者数など、確認していない数字。
厚生労働省が周知すべき事項として挙げているのも、まさにこの水準の具体性です。
「相談することによる不利益はないこと」
社内相談窓口設置までの流れとポイント|こころの耳(厚生労働省)
この一文だけを掲示するのではなく、「なぜ不利益にならないと言えるのか」という設計上の根拠——誰が何を見て、誰が見ないか——まで含めて説明して初めて、この一文は信じてもらえるものになります。
導入して終わりにしない:相談件数以外に見るべき指標
社外窓口を導入した直後は、相談件数だけを追うと判断を誤ります。制度を変えたことがすぐに件数へ反映されるとは限らず、逆に件数が増えたからといって窓口の質が上がったとも限りません。見るべきは、窓口の存在が一度きりの告知で終わらず継続して社内に届いているか、相談後の対応が実際に完了しているか、そして「相談しやすい窓口となっているか」という点検を定期的に行っているかどうかです。これらは相談件数のように一目でわかる数字ではありませんが、窓口が形だけのものになっていないかを確認する手段になります。
よくある質問
社外相談窓口に変えれば、本当に相談されるようになりますか?
確実ではありませんが、社内窓口が抱える構造的な問題——相談内容が評価者と同じ組織に伝わるかもしれないという不安——を取り除ける点で、周知を増やすだけの対策より効果が見込めます。厚生労働省も、相談体制の整備とあわせてプライバシー保護や不利益取扱いの禁止を明確にすることを求めており、社内・社外いずれの窓口であってもこの水準を満たす必要があります。
社外相談窓口にすると、人事は相談内容を一切知ることができないのですか?
契約や運用の設計によりますが、相談者個人が特定される内容は本人の同意なしに共有せず、緊急性が高い場合や本人の同意がある場合に限って必要な範囲で連携する、という線引きが基本の考え方です。この境界を事前に文書化し、従業員にも開示することが信頼につながります。
社内窓口は廃止して社外に一本化すべきですか?
必ずしも一本化が最適とは限りません。対面で相談したい人もいれば、社内の関係者には話したくない人もいるため、複数の窓口を用意して選べる状態にしておくという考え方もあります。自社の従業員構成や相談内容の傾向を踏まえて判断してください。
周知はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
設置時の一度きりの告知では、窓口の存在自体が忘れられてしまいます。イントラネットへの常設掲載や、定期的なリーフレット配布など、繰り返し告知することを前提に設計する必要があります。
社内相談窓口の利用が伸びない主な理由は周知不足ではなく、窓口が社内にあること自体への構造的な不信です。相談件数を増やすことより先に、人事が受け取る情報とその境界を決めてください。
次にすること
- いまの周知文言を読み返す。「安心してご相談ください」で終わっていないか。
- 「誰が何を見るか」を書き出す。上の表の5行について、自社ではどちらなのかを決める。
- 決めた境界を文書にして、従業員に開示する。開示されていない境界は、無いのと同じです。
社外の相談窓口への切り替えを検討する場合も、順序は同じです。
よくあるご質問
社外相談窓口に変えれば、本当に相談されるようになりますか?
確実ではありませんが、社内窓口が抱える構造的な問題——相談内容が評価者と同じ組織に伝わるかもしれないという不安——を取り除ける点で、周知を増やすだけの対策より効果が見込めます。厚生労働省も、相談体制の整備とあわせてプライバシー保護や不利益取扱いの禁止を明確にすることを求めており、社内・社外いずれの窓口であってもこの水準を満たす必要があります。
社外相談窓口にすると、人事は相談内容を一切知ることができないのですか?
契約や運用の設計によりますが、相談者個人が特定される内容は本人の同意なしに共有せず、緊急性が高い場合や本人の同意がある場合に限って必要な範囲で連携する、という線引きが基本の考え方です。この境界を事前に文書化し、従業員にも開示することが信頼につながります。
社内窓口は廃止して社外に一本化すべきですか?
必ずしも一本化が最適とは限りません。対面で相談したい人もいれば、社内の関係者には話したくない人もいるため、複数の窓口を用意して選べる状態にしておくという考え方もあります。自社の従業員構成や相談内容の傾向を踏まえて判断してください。
周知はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
設置時の一度きりの告知では、窓口の存在自体が忘れられてしまいます。イントラネットへの常設掲載や、定期的なリーフレット配布など、繰り返し告知することを前提に設計する必要があります。
窓口はあるのに使われていない、という段階でしたら
United World Counseling は、企業の従業員向けのオンラインカウンセリングです。社内の窓口とは別に、社外の相談先を用意する形でご利用いただけます。会社と利害関係のない、社外の窓口です。
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