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ハラスメント相談窓口、社内だけで足りるか外部が必要か

最終更新: / United World Counseling 編集部(ユナイテッドワールド株式会社)

指針が求めているのは「外部窓口の設置」ではなく「相談・事実確認・是正までできる体制」であり、社内窓口でも要件は満たせます。ただし加害者になりうる人物が相談窓口担当者の指揮命令下にある場合は構造的に機能しないため、令和8年10月のカスタマーハラスメント・求職者等セクシュアルハラスメントの義務化を機に、その構造が自社にあるかを点検する必要があります。

結論から言うと、法律が求めているのは「外部窓口を置くこと」ではなく「相談を受け、事実を確認し、是正するところまでできる体制」です。社内窓口がこれを担える場面と、構造的に担えない場面があり、その境目を知ることが判断基準になります。

法律が実際に求めているのは「外部窓口」ではなく「機能する体制」

厚生労働省の指針は、事業主が講ずべき措置として次のように整理しています。

「事業主が雇用管理上講ずべき措置■事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発■相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備■ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応■併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)」

厚生労働省

ここに「外部委託」という言葉は出てきません。求められているのは、相談を受け付け、必要な体制を整備することです。

「相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること」

職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)

つまり内部窓口だけで指針の要件を満たすことは制度上可能です。問題は「体制を整備した」という形式ではなく、それが実際に機能するかどうかです。

社内窓口が得意なこと

社内窓口には外部にはない強みがあります。相談を受ける担当者が普段から職場の人間関係や業務の実態を知っているため、状況の飲み込みが速く、初動の事実確認に着手しやすい。就業規則や評価制度の運用を熟知しているぶん、是正措置につなげる動線も短くて済みます。厚生労働省も、窓口が機能しているかどうかを定期的に点検するよう求めています。

「事業主は、日頃から労働者への意識啓発等、ハラスメント対策の周知徹底を図るとともに、相談しやすい相談窓口となっているかを点検する等、職場環境に対するチェックを行い、特に未然の防止対策を十分に講じるようにしましょう。」

厚生労働省

この点検を前提にすれば、社内窓口を最初から否定する理由はありません。

社内窓口が構造的にできないこと

問題は、相談を受ける担当者自身が、加害者とされる人物の指揮命令下にある場合です。直属の上司が相談窓口を兼ねていて、その上司自身が行為者である。あるいは人事部長やその上位にあたる役員が行為者である。この場合、担当者にどれだけ意欲があっても、公正な事実確認や是正の実行を期待するのは難しくなります。これは担当者の資質の問題ではなく、報告ラインという組織図の問題です。加害者を評価し、加害者に評価される立場の人間が、その加害者について客観的に調べることには構造的な限界があります。

この構造がある会社ほど、従業員は「相談しても無駄」と判断して黙ります。指針が不利益取扱いの禁止をわざわざ明文化しているのも、この沈黙を前提にしているからです。

「相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること」

職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)

不利益取扱いの禁止を周知しても、相談窓口そのものが加害者の指揮命令下にあるなら、従業員から見た心理的なリスクは消えません。この場合に必要なのは「もっと周知する」ことではなく、報告ラインの外側に相談先を用意することです。

令和8年10月、相談窓口が対応すべき範囲が広がる

この点検は先送りできる話ではありません。カスタマーハラスメントと求職者等セクシュアルハラスメントが、まもなく新たに事業主の義務対象に加わるためです。

「令和8年10月1日よりカスタマーハラスメント及び求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務となります!」

職場のハラスメント対策(山形労働局)

義務化される内容は、パワーハラスメントの措置義務と同じ構成です。労働施策総合推進法の条文(令和8年10月1日施行、施行前は第30条の2)は次のように定めています。

「【労働施策総合推進法(抄)】(職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)第31条事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用……」

労働施策総合推進法(抄)

カスタマーハラスメントについては、同じ法律に新設される第33条(令和8年10月1日施行)が、顧客等の言動から労働者を守る措置義務を定めます。

「(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)第三十三条事業主は、職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において顧客等という。)の言動であつて、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(以下この項及び次条第一項において顧客等言動という。)により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

労働施策総合推進法(抄)第三十三条

相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止も、この条文に明記されています。

「2事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」

労働施策総合推進法(抄)第三十三条第2項

顧客からのハラスメントは、社内の報告ラインとは別の構図です。しかし相談を受ける窓口が「顧客対応の当事者である営業部門の上司」であるようなケースでは、やはり同じ構造的な限界が生じます。今のうちに、既存の窓口がこの範囲まで受け止められる設計かを点検しておく必要があります。

外部委託が埋める部分・埋めない部分

外部窓口を導入しても、事業主の義務がすべて外部に移るわけではありません。事実確認や行為者への是正、再発防止までを最終的に担うのは、委託先ではなく自社です。外部窓口は「報告ラインの外側にある入口」を追加するものであり、社内の対応体制そのものを代替するものではありません。義務となっているハラスメントの種類は次の通りです。

社内窓口 外部窓口を足した場合
職場の実態の把握 速い。人間関係と業務を普段から知っている 社内ほど速くはない
是正措置への動線 短い。就業規則と評価制度の運用を熟知している 是正の実務は自社に残る
行為者が担当者の指揮命令下にある場合 構造的な限界。担当者の資質ではなく組織図の問題 報告ラインの外側に入口を作れる
事実確認・是正・再発防止 自社 自社。委託しても事業主の義務は移らない

「事業主の対策が義務となっているハラスメントは、・パワーハラスメント・カスタマーハラスメント(令和8年10月1日から)・セクシュアルハラスメント・求職者等に対するセクシュアルハラスメント(令和8年10月1日から)・妊娠・出産等に関するハラスメント・育児・介護休業等に関するハラスメントです!」

厚生労働省

このすべての種類について、相談の入口をどこに置くかと、事実確認・是正を誰が担うかは、分けて設計する必要があります。社外の相談窓口は前者を補い、後者の実務は自社に残る、という前提で導入計画を立てるのが実態に合っています。

内部のままでよいケース・外部を足すべきケースの判断基準

自社はどちらか

  • 行為者になりうる人物が、相談窓口の担当者の指揮命令下に入らない役職・部門に限られている社内窓口の点検・改善で対応可能
  • 行為者になりうる人物に、人事部長・役員・直属の経営層など、相談窓口を実質的に管理する立場の人間が含まれる報告ラインの外側に外部窓口が必要
  • 「相談しても無駄」という声や、相談件数の少なさに実感と乖離がある沈黙が構造的な不信の表れである可能性を点検する
  • カスタマーハラスメント・求職者等セクシュアルハラスメントの相談経路が、既存の社内窓口の対象範囲に明確に含まれていない令和8年10月の義務化までに窓口の対象を確認する

導入の実務

外部窓口を足すと決めた場合の手順本文『導入の実務』と『まず自社の体制を点検してみてください』が述べている手順1今の窓口担当者が誰の指揮命令下にあるかを組織図で確認する人事・総務2行為者になりうる人物が窓口の外側にいるかを確認する人事・総務3就業規則・相談窓口規程に窓口の追加を反映する人事・総務4内部・外部で同水準の保護が及ぶことを明文化する人事・総務5全従業員に周知する人事・総務
外部窓口を足すと決めた場合の手順

外部窓口を足すと決めた場合も、就業規則・相談窓口規程に窓口の追加を反映し、全従業員に周知することが前提になります。プライバシー保護と不利益取扱い禁止は、外部・内部のどちらの窓口を使った場合にも同じ水準で適用されると明文化しておく必要があります。この設計自体は自社の義務として残るため、外部委託先を決める前に、社内の規程と周知の現状を確認しておくことをおすすめします。

まず自社の体制を点検してみてください

この記事は「外部窓口を導入すべきか」を決める前段階の整理です。今の相談窓口の担当者が、誰の指揮命令下にあるか、そして行為者になりうる人物がその外側にいるかどうかを、まず自社の組織図で確認してみてください。判断に迷う場合は、具体的な組織構成を踏まえてご相談いただくことも可能です。

よくあるご質問

外部相談窓口を設置すれば、社内の窓口はもう不要になりますか?

なりません。指針が事業主に求めているのは相談を受けた後の事実確認・行為者への対処・再発防止までの体制であり、これは委託した外部窓口ではなく自社の義務として残ります。外部窓口は相談の入口を増やすものであり、社内の対応体制の代わりにはなりません。

中小企業も外部委託が義務なのですか?

義務ではありません。事業主に義務づけられているのは「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」であり、それを社内・社外どちらで満たすかは事業主の選択です。

相談窓口の担当者やその上司自身がハラスメントの当事者だった場合はどうすればいいですか?

この場合が、社内窓口だけでは構造的に機能しないケースです。相談を受ける側が加害者の指揮命令下にある限り、公正な事実確認は期待しにくく、これは担当者の資質の問題ではなく組織図の問題です。この状況こそ、報告ラインの外にある外部窓口が必要な理由になります。

令和8年10月の法改正に向けて、何を確認すればいいですか?

既存の相談窓口が、カスタマーハラスメントと求職者等セクシュアルハラスメントの相談も受け付ける設計になっているかを確認してください。あわせて、相談窓口の担当者が、これらの行為者になりうる人物(顧客対応部門の上司など)の指揮命令下にないかも点検が必要です。

ハラスメント相談を、社外の窓口で受けるという選択

United World Counseling は、企業の従業員向けのオンラインカウンセリングです。社内の人間関係を、利害関係のない相手に相談できる場としてご利用いただけます。会社と利害関係のない、社外の窓口です。

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出典

  1. 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成27年4月15日 心理的な負担の程度を把握するための検査等指針公示第1号/平成30年8月22日 同公示第3号 最終改正) 原文
  2. 事業主が講ずべきハラスメント対策(パンフレット) 原文
  3. 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) 原文
  4. 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第33条(令和8年10月1日施行) 原文

本記事は一般的な説明です。個別の事案における法令の適用および解釈については、所轄の労働基準監督署、産業保健総合支援センター、または専門家にご確認ください。