外国人社員の離職が続くのはなぜか——相談窓口の「実効性」という見落とし
外国人社員の離職の多くは、給与や昇進への不満が「決まった後」に表面化したものであり、その手前で蓄積する孤立感やストレスは、評価者でもある社内窓口では把握しにくい。厚生労働省の指針が事業主に求める苦情・相談体制を、独立した外部の窓口で補完することが、離職理由リストの改善だけでは埋まらない構造的な穴を塞ぐ一つの選択肢になる。
「よくある離職理由」を直しても、定着率が変わらない企業がある
「よくある離職理由」への対策をひと通り済ませても、外国人社員の離職が止まらない企業がある。理由は、多くの記事が並べる離職理由——給与、昇進、マネジメントへの不満——が、退職が決まったあとに表面化したものの集計であり、その手前で本人の中に蓄積している孤立感やストレスまでは捉えていないからだ。
外国人労働者を雇用する事業所は年々増えており、初めて外国人社員を迎えた人事担当者が、対応の手探りのまま定着の壁にぶつかるケースも増えている。
採用コストをかけて迎えた社員が短期間で離職すれば、次の一手を探すのは自然な動きだ。ただし、既存の離職理由リストを何度見直しても定着率が変わらないとすれば、リストの精度ではなく、リストが拾えていない範囲に原因がある可能性を疑う段階に来ている。
表面化した不満と、その手前で起きていること
退職の意思を伝える段階になって語られる理由は、給与や昇進、上司のマネジメントへの不満であることが多い。だが、それらの不満が「辞める」という決断に変わるまでの間には、日々の職場で誰にも打ち明けられないまま積み重なっていく孤立感やストレスの蓄積という、別の段階がある。
この段階は、離職理由の集計には現れない。本人が誰にも話さないまま社内で処理してしまうか、あるいは話す先がないまま退職を決めてしまうかのどちらかだからだ。表面化した不満だけを直しても定着率が動かない企業では、この手前の段階に対応する仕組みが抜け落ちている可能性がある。
厚生労働省の指針が事業主に求める「苦情・相談体制」とは
この「話す先がない」状態は、実は厚生労働省が事業主に向けて示している指針の対象そのものである。「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年8月3日厚生労働省告示第276号、平成19年10月1日適用)は、事業主に苦情・相談体制の整備を求めている。
「事業主は、外国人労働者の苦情や相談を受け付ける窓口の設置等、体制を整備し、日本における生活上又は職業上の苦情・相談等に対応するよう努めるとともに、必要に応じ、地方公共団体が情報提供及び相談を行う一元的な窓口等、行政機関の設ける相談窓口についても教示するよう努めること。」
外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年8月3日厚生労働省告示第276号)
窓口の「設置」を求める規定であって、そこに実際に相談が集まるかどうかまでは指針の文言だけでは分からない。多くの記事が「多言語対応の窓口を作りましょう」で紹介を終えるのは、この先——窓口が機能しているかどうか——を扱っていないからだ。
なぜ社内の相談窓口だけでは本音が集まらないのか
窓口が「ある」ことと、そこに本音が集まることは別の問題だ。社内の相談窓口は、多くの場合、その社員を評価する上司や、在留資格の更新に関わる会社そのものと地続きの場所に置かれている。評価にどう影響するか分からない内容を、評価者につながる窓口に話すことには、構造的なためらいが伴う。
指針は、体制の整備を「形式」で終わらせないことも求めている。安全衛生教育について次のように定めているのは、その一例だ。
「事業主は、労働安全衛生法等の定めるところにより外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと。特に、外国人労働者に使用させる機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱方法等が確実に理解されるよう留意すること。」
外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年8月3日厚生労働省告示第276号)
指針が求めているのは「用意したこと」ではなく「理解できる・使える形であること」である。相談窓口についても同じことが言える。社内に窓口があっても、評価者から独立していなければ、本音が集まる窓口としては機能しにくい。
在留資格によって離職の構造は同じではない
外国人社員の離職を一括りに語ることにも注意が要る。在留資格によって、転職のしやすさと会社との依存関係が大きく異なるからだ。厚生労働省の届出統計では、在留資格別の内訳のうち専門的・技術的分野が最も多い規模で伸びている。
「外国人労働者数を在留資格別にみると、専門的・技術的分野の在留資格が最も多く865,588人(外国人労働者数全体の33.7%)—前年比146,776人(20.4%)増加」
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
技能実習や特定技能のように転籍に制約のある在留資格と、専門的・技術的分野のように転職の自由度が比較的高い在留資格とでは、不満が離職に変わるまでの構造が異なる。制度上の詳細は出入国在留管理庁・厚生労働省の一次情報で確認する必要があるが、少なくとも「同じ対策を全員に当てはめる」という発想自体を見直す価値はある。
自社の外国人社員は、どの構造に近いか
- 技能実習や特定技能など、転籍に制約のある在留資格が中心の場合離職件数だけでは不満の大きさは測れない。水面下のストレスや孤立感を把握する体制が要る
- 専門的・技術的分野など、転職の自由度が比較的高い在留資格が中心の場合不満がそのまま離職に直結しやすい。早期にシグナルを拾える相談経路が要る
- 複数の在留資格が混在している場合一律の離職対策ではなく、資格ごとに構造を分けて確認する
外部の相談窓口が担える役割、担えない役割
評価者や査証のスポンサーから独立した社外の相談窓口は、社内窓口だけでは集まりにくい本音の受け皿になり得る。指針が求める体制整備を、社内窓口の代わりにではなく、補完する形で用意する企業があるのはこのためだ。
ただし外部窓口が担えるのは、話を聴き、必要に応じて社内の担当部署につなぐ役割までである。在留資格の更新手続きや、給与・評価制度そのものの変更、法律相談は外部の相談窓口の範囲ではない。この線引きを曖昧にしたまま導入すると、期待と実態のずれがかえって不信を招く。
導入を検討する前に、社内で確認しておくべきこと
相談窓口を新たに用意する前に、まず自社の現状を確認する段階がある。
導入前チェック
- 現在の社内相談窓口が、誰が対応し、相談内容が人事評価や在留資格の手続きにどう影響しない仕組みになっているかを社員に説明できているか確認する
- 外国人社員が実際にどの言語での相談を必要としているかを、在留資格や職種ごとに把握する
- 「窓口はある」で終わらせず、実際に相談が寄せられているかを定期的に確認する
- 書いてはいけないこと:相談窓口の担当者を、その社員を評価する上司と兼務させたまま「相談しやすい体制」と説明する
まずは自社の相談体制がどこまで機能しているかを点検するところから始めてほしい。社外の窓口を制度として検討する場合は、対応できる範囲や体制について、法人向けのお問い合わせからご相談いただきたい。
よくあるご質問
外国人社員の離職率は、日本人社員と比べて本当に高いのですか?
調査によって数値は大きく異なり、対象とする在留資格や集計期間、離職の定義(自己都合か契約満了かなど)が揃っていないため、単純な比較には注意が必要です。厚生労働省が毎年公表する「外国人雇用状況」の届出状況は雇用されている人数の集計であり、離職率そのものを示す政府統計ではありません。自社の状況を把握するには、外部調査の数字を引用するより先に、自社の在籍者データを在留資格・雇用形態別に確認することが出発点になります。
社内に相談窓口を設ければ、厚労省の指針が求める体制として十分ですか?
厚生労働省の指針は、事業主が苦情・相談を受け付ける窓口を整備し、生活上・職業上の相談に対応するよう努めることを求めています。ただし窓口の『設置』と、そこに本音が実際に集まることは別の問題です。評価者や査証のスポンサーでもある会社の窓口には、評価への影響を懸念して話しにくい内容があるという構造上の限界があり、社内窓口を補完する形で、独立した外部の相談先を用意する企業もあります。
技能実習生や特定技能の社員と、正社員として採用した外国人社員とでは、離職への対応は同じでよいですか?
在留資格によって転籍のしやすさや会社との依存関係が異なるため、同じ『定着』でも意味合いが変わります。転籍に制約のある在留資格では離職そのもののハードルが高い一方、専門的・技術的分野の在留資格では転職の自由度が高く、不満が離職に直結しやすい傾向があります。制度上の違いは出入国在留管理庁・厚生労働省の一次情報で確認し、一律の対策で済ませないことが重要です。
相談は日本語以外にも対応してもらえますか?
多言語での対応は企業ごとに範囲が異なります。自社の外国人社員がどの言語を必要としているかを踏まえ、導入前に対応可能な言語と範囲を確認することをお勧めします。
外国籍社員の相談先をお探しでしたら
United World Counseling は、企業の従業員向けのオンラインカウンセリングです。英語・日本語の両方に対応しており、日本語での相談が難しい社員にもご利用いただけます。会社と利害関係のない、社外の窓口です。
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