外国籍社員のメンタルヘルス|人事が押さえるべき違いと対応
要点。外国籍社員のメンタルヘルス対応が難しいのは、本人の性格や文化の問題ではなく、相談経路に構造的な障害があるためです。障害は主に三つあります。
- 言語:業務は日本語でこなせても、心身の状態を母語以外で説明するのは別の能力です。
- 在留資格:働き続けられるかどうかが在留の前提に直結するため、弱みを見せる判断のコストが日本人社員と異なります。
- 生活基盤:家族や友人が近くにおらず、職場以外に相談先がないことが多い。
まず、規模の話から
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況によれば、令和7年10月末時点で外国人労働者数は2,571,037人、外国人を雇用する事業所数は371,215所となり、いずれも届出が義務化された平成19年以降で過去最多となりました。前年(2,302,587人、342,087所)からは、それぞれ268,450人、29,128所の増加です。
ただし増加の勢いそのものは緩やかになっています。対前年増加率は外国人労働者数で11.7%と、前年の12.4%から0.7ポイント低下しました。「増え続けている」という表現は正確ですが、「加速している」は事実と異なります。
実務上より重要なのは在留資格別の内訳です。最も多いのは「専門的・技術的分野の在留資格」で865,588人(全体の33.7%)、前年比20.4%の増加。技能実習ではなく、いわゆる正社員採用で入ってくる層が最大かつ最も速く伸びています。この層は、日本人社員と同じ人事制度・同じ評価制度の中で働き、同じ相談窓口の対象になります。
なぜこの数字が人事の問題になるのか
事業所数が371,215というのは、外国籍社員のメンタルヘルス対応が一部の大企業の課題ではなくなっているということです。数名の外国籍社員を雇用する中小企業が、専門部署を持たないまま同じ問題に直面しています。
固有の要因1:言語の壁は「日本語能力」の問題ではない
最も誤解されやすい点です。「日本語が上手だから大丈夫」という判断が、対応の遅れにつながります。
業務上の日本語と、自分の状態を語る日本語は、必要とされる能力が違います。仕様の確認や進捗の報告は語彙が限定的で、繰り返しによって習熟します。一方、「最近眠れない」「上司の言い方がつらい」「自分でも何が苦しいのかわからない」といった内容は、語彙が抽象的で、しかも言い方を間違えると誤解されるという緊張を伴います。
その結果、多くの場合こうなります。
- 「大丈夫です」と答える。これは最も安全で、最も少ない語彙で言える返答だからです。
- 説明が必要な話題を避け、結論だけを述べる。深刻さが伝わりません。
- 限界に達してから、退職の意思表示という形で初めて表面化する。
面談を設定しても、その面談が日本語で行われる限り、この構造は変わりません。
固有の要因2:在留資格が判断のコストを変える
就労資格に基づいて在留している社員にとって、雇用の継続は在留の前提です。この点が、不調を申告するかどうかの判断に影響します。
日本人社員であれば、休職や配置転換は「働き方の調整」として検討できます。同じ選択肢が、在留資格を持つ社員にとっては「在留への影響がありうる事柄」として意識されます。実際に直ちに在留資格が失われるわけではなくとも、本人にとってのリスクの見え方が違うという点が重要です。人事が「制度上は問題ない」と考えていても、本人がそう受け取っているとは限りません。
この非対称は、対応する側が意識していないと埋まりません。就業上の措置を検討する場面では、在留資格に関する事実関係を本人に正確に伝えることが、不安の軽減として機能します。
固有の要因3:職場の外に相談先がない
家族が近くにおらず、母語で話せる友人が限られ、かかりつけの医療機関もない。この状態では、職場が生活のほぼ全体になります。職場で起きた問題を職場の外で相殺できないため、同じ出来事でも負荷の蓄積が早くなります。
逆に言えば、職場の外に一つでも話せる場所があること自体が対策になります。社内の相談窓口ではなく、社外の窓口が有効なのはこのためです。
社内の相談窓口が使われない理由
外国籍社員に限らず、社内窓口が使われない最大の理由は「人事に知られたくない」という懸念です。外国籍社員の場合は、ここに二つの障害が加わります。
| 障害 | 内容 | 人事にできること |
|---|---|---|
| 言語 | 窓口が日本語のみで運用されており、そもそも利用できない | 対応言語を明示する。英語で相談できるかどうかを、告知の時点で書く |
| 制度の不透明さ | 日本の職場の相談窓口が何をする場所なのかがわからない。人事評価と結びついているのではないかと考える | 何が会社に伝わり、何が伝わらないかを具体的に書く。「秘密は守られます」だけでは足りない |
ストレスチェック制度との関係
ストレスチェックは労働安全衛生法にもとづく制度で、外国籍社員も対象です。ここで注意すべきなのは、高ストレスと判定されても、医師による面接指導は本人が申し出なければ実施されないという点です。申出は義務ではありません。
厚生労働省の指針は、申出を行わない労働者がいることを前提に、事業者に対して相談窓口を広げるよう求めています。
「事業者は、ストレスチェック結果の通知を受けた労働者に対して、相談の窓口を広げ、相談しやすい環境を作ることで、高ストレスの状態で放置されないようにする等適切な対応を行う観点から、日常的な活動の中で当該事業場の産業医等が相談対応を行うほか、産業医等と連携しつつ(中略)心理職が相談対応を行う体制を整備することが望ましい。」
厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成27年4月15日公示第1号、平成30年8月22日最終改正)
また、結果を通知する際には「面接指導の申出窓口以外の」相談窓口を案内することが望ましいとされています。外国籍社員については、その窓口が対応する言語まで含めて案内できているかどうかが、実際に使われるかどうかを分けます。
詳細は 高ストレス者が面接指導を申し出ないとき、事業者は何をすべきか をご覧ください。
人事が実務でとれる対応
1. 対応言語を明示する
相談窓口の告知に、対応言語を書きます。「英語対応可」と一行あるかないかで、利用率が変わります。書かれていない場合、利用できないものとして扱われます。
2. 何が会社に伝わるかを、具体的に書く
「秘密厳守」という言葉は、日本の職場慣行を前提としない読み手には情報量がありません。「会社が受け取るのは利用件数の集計のみで、誰が何を話したかは受け取りません」と書くほうが伝わります。可能であれば、その説明を英語でも用意します。
3. 定期的な接点を、評価と切り離して置く
1on1が評価面談を兼ねていると、不調は出てきません。評価と無関係であることが構造的に明らかな場が必要です。社外の窓口はその条件を満たします。
4. 「大丈夫です」を確認と受け取らない
前述のとおり、これは最も言いやすい返答です。勤怠、成果物の質、コミュニケーション量の変化といった観察可能な指標を併せて見ます。
5. 医療が必要な場合の経路を、あらかじめ確認しておく
英語で受診できる医療機関は限られます。必要になってから探すのでは間に合いません。産業医や外部窓口と、事前に接続経路を確認しておきます。
よくあるご質問
日本語が話せる社員でも、英語での相談窓口は必要ですか?
業務上の日本語と、自分の心身の状態を説明する日本語は別の能力です。日常業務に支障がない社員でも、体調やメンタルの微妙な状態を母語以外で説明することには別の難しさがあります。本人が言語を選べる状態にしておくことをおすすめします。
外国籍社員もストレスチェックの対象になりますか?
はい。ストレスチェックは労働安全衛生法にもとづき事業者に義務づけられているもので、対象は雇用する労働者です。国籍による区別はありません。ただし設問が日本語のみである場合、正確な回答が得られない可能性があります。
相談内容が在留資格に影響することはありますか?
カウンセリングの利用そのものが在留資格に影響することはありません。ただし本人がそう認識しているとは限らないため、導入時にこの点を明示することが有効です。個別の在留資格の取扱いについては、出入国在留管理庁または専門家にご確認ください。
本人が「大丈夫」と言っている場合、どう対応すればよいですか?
言葉での確認だけに頼らず、勤怠、成果物、コミュニケーション量といった観察可能な変化を併せて見てください。そのうえで、いつでも使える相談先があることを、個別の働きかけとしてではなく全員向けの案内として繰り返し伝えるのが現実的です。
数名しか外国籍社員がいない会社でも対策は必要ですか?
人数が少ないほど、社内に同じ立場の相談相手がいないという問題は大きくなります。専用の制度を作るより、既存の相談窓口が対応できる言語を広げるほうが現実的な場合が多くあります。
外国籍社員の相談先をお探しでしたら
United World Counseling は、企業の従業員向けのオンラインカウンセリングです。英語・日本語の両方に対応しており、日本語での相談が難しい社員にもご利用いただけます。会社と利害関係のない、社外の窓口です。
英語対応について問い合わせる