外国籍社員の相談窓口に英語対応は必要か 厚労省指針の努力義務を整理
厚生労働省の指針は、外国人労働者向けの苦情・相談体制の整備を事業主の努力義務としているが、条文そのものは対応言語を指定していない。特定技能1号の社員を受け入れている場合は入管法に基づく別の仕組みも関わるため出入国在留管理庁の資料で別途確認し、英語対応は新たに別窓口を作るのではなく既存の全社共通の相談窓口に加える方法を検討するのが現実的である。
外国籍社員から「相談する場所がない」と言われていませんか
外国籍の社員から「相談できる窓口がない」「日本語でしか対応してもらえない」と言われて困っているなら、まず確認すべきは厚生労働省の指針が求める「苦情・相談体制の整備」である。この指針は事業主の努力義務であり、条文そのものは対応言語までは指定していない。しかし現場では、英語などで相談できるかどうかが、窓口が実際に機能するかをそのまま左右する。
よくあるきっかけ
- 受け入れの開始特定技能や技能実習などの枠組みで外国籍の社員を初めて受け入れ、相談対応をどう整えるか検討が必要になった
- 指針を知った労働局や取引先の資料で、事業主に苦情・相談体制の整備が求められていることを知った
- 実際の相談外国籍の社員から相談を受けたが、日本語での対応しかできず、十分に話を聞けなかった
外国人労働者を雇用する事業所は増え続けている。
「令和7年10月末時点で、外国人労働者数は2,571,037人、外国人を雇用する事業所数は371,215所であり、令和6年10月末時点(2,302,587人、342,087所)に比べ、268,450人、29,128所増加している。外国人労働者数及び外国人を雇用する事業所数ともに、届出が義務化された平成19年以降、過去最多となった。」
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
外国籍社員を雇用する事業所がこれだけ増えている以上、相談窓口に英語対応が必要かという問いは、特殊な事情を持つ一部の企業だけの話ではなくなっている。
厚生労働省の指針が求める「苦情・相談体制の整備」とは
根拠は2007年8月3日・厚生労働省告示第276号「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」である。
「事業主は、外国人労働者の苦情や相談を受け付ける窓口の設置等、体制を整備し、日本における生活上又は職業上の苦情・相談等に対応するよう努めるとともに、必要に応じ、地方公共団体が情報提供及び相談を行う一元的な窓口等、行政機関の設ける相談窓口についても教示するよう努めること。」
厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(2007年8月3日・厚生労働省告示第276号)
ここで求められているのは「苦情・相談を受け付ける窓口の設置等」という体制の整備であり、努力義務である。条文は対応言語を指定していない。つまり条文の文言だけを読めば、日本語の窓口を一つ置けば足りるという解釈も成り立つ。
一方、同じ指針は別の場面では、外国人労働者が理解できる方法を取ることを明記している。
「事業主は、労働安全衛生法等の定めるところにより外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと。特に、外国人労働者に使用させる機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱方法等が確実に理解されるよう留意すること。」
厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(2007年8月3日・厚生労働省告示第276号)
安全衛生教育については「理解できる方法」が明記されているのに対し、苦情・相談体制は「窓口の設置等」までしか明記されていない。この違いは、ベンダーの案内文でも見落とされがちである。言語の指定がないからといって、日本語のみの窓口が実際に機能するとは限らない。
特定技能1号の社員がいる場合は、別に確認してほしいこと
特定技能1号の在留資格で社員を受け入れている場合、本稿で取り上げた指針とは別に、入管法に基づく受入れ機関としての仕組みも関わってくる可能性がある。その内容は本稿の範囲を超えるため、出入国在留管理庁の資料や、委託している登録支援機関への確認が必要になる。以下で扱うのは、あくまで指針が努力義務として求める「苦情・相談体制の整備」に限った話である。
自社はどちらに当たるか
- 外国籍社員はいるが、特定技能などの受入れ制度は使っていない本稿の指針(努力義務)の対象。窓口の設置と、実際に使われている言語の確認が必要
- 特定技能1号の社員を受け入れている本稿の指針に加えて、入管法に基づく別の仕組みも関わる可能性がある。出入国在留管理庁の資料で確認する
- 複数の在留資格の社員が混在している制度ごとの違いを個別に追うより、まず全社員共通の窓口の対応言語を広げることから検討する
英語対応を「別サービス」として作ると起きがちなこと
指針を読んで、英語の相談窓口を別に用意しようと考える企業は多い。しかし、日本人社員向けの窓口と外国籍社員向けの窓口を完全に分けて運用すると、いくつかの問題が起きやすい。
周知が分断される
窓口が二つあると、どちらに相談すればよいか社員が迷う。利用案内も二系統になり、更新が片方だけ漏れることが起きる。
公平感の問題
外国籍の社員だけに特別な窓口があるという見え方は、意図しない分断を社内に作ることがある。
運用の負担が増える
委託先が二つになれば、契約・周知・問い合わせ対応をそれぞれ個別に管理することになる。
全社共通の相談窓口に英語対応を加えるという選択肢
指針は、社外に窓口を置くという発想そのものを否定していない。公的な案内でも、社内窓口に抵抗がある人を想定した説明がある。
「社内相談窓口に相談することに抵抗のある従業員もいる可能性がありますので、社外相談窓口の設置についても併せて検討しましょう。相談の入口を複数設けることで、相談者に選択の余地が生まれ、相談に対するハードルが下がる効果が期待できます。」
厚生労働省「こころの耳」事業場向け情報
この発想を、日本人社員と外国籍社員とで分けずに一つの社外窓口に統合すれば、英語対応は別サービスではなく、既存の相談窓口が備える対応言語の一つという位置づけになる。周知文書は一種類のままで済み、どの社員がどちらの窓口を使うかで迷う必要もなくなる。
導入前にHRが確認しておきたいこと
- 対応言語の範囲(英語だけか、他の言語も必要か)が、自社の外国籍社員の実情と合っているか
- 相談内容が人事・総務に伝わらない仕組みになっているか
- 利用案内を日本語と対象言語の両方で、全社員に同じタイミングで周知できるか
- やってはいけないこと:外国籍社員だけに向けた告知物を別途作り、既存の案内と内容をずらしたまま放置する
よくある質問
まずは何から確認すればよいか
次にすること
- 現状の確認社内に相談窓口があるか、あるとして実際に外国籍社員が使える言語で運用されているかを確認する
- 対象者の確認特定技能1号など、指針とは別の制度上の確認が自社に関わるかを整理する
- 相談してみる既存の窓口に英語対応を加えられるか、分けて作る必要が本当にあるかを、外部の相談窓口の運営者に聞いてみる
自社の体制がどちらに当たるか分からない場合は、まず社外の相談窓口の仕組みを確認し、どこまでを一つの窓口でカバーできるかを問い合わせてみてほしい。
よくあるご質問
外国籍社員向けの英語対応相談窓口は法律上の義務ですか?
苦情・相談体制の整備そのものは、厚生労働省の指針(2007年8月3日・厚生労働省告示第276号)で事業主の努力義務とされており、条文は対応言語までは指定していません。特定技能1号の社員を受け入れている場合は、入管法に基づく別の仕組みも関わる可能性があるため、出入国在留管理庁の資料で別途確認してください。
対応言語は英語だけで十分ですか?
雇用している外国籍社員が実際に使う言語によります。指針は苦情・相談体制自体の対応言語を指定していないため、自社の社員構成を踏まえて検討する必要があります。
技能実習生や特定技能の社員も、日本人社員と同じ相談窓口で良いですか?
窓口自体を分けることが法律で求められているわけではありません。ただし特定技能1号の社員については、本稿の指針とは別に確認しておきたい点があります。
料金はどのくらいかかりますか?
料金については、企業規模やご利用内容等に応じてご案内いたします。詳しくはお問い合わせください。
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